開業ラッシュが生んだ現場の質低下──求人過多状態がもたらす美容医療人材の流動化

「求人が途切れない」美容医療業界の異常
ここ数年、美容クリニックの開業ラッシュが続き、
求人サイトを開けば常にどこかでスタッフ募集が出ています。
一見、活況に見えるこの状況ですが、
現場からは「人が定着しない」という声が後を絶ちません。
求人が当たり前になると起きること
求人が常態化すると、スタッフの頭の片隅には
「いざとなれば他に行ける」という感覚が残ります。
転職活動を積極的にしていなくても、
日々の不満や条件比較が転職のきっかけになりやすくなるのです。
さらに、求人票が常に出ている状態は、外部からは
「人が定着しない職場」「何か問題があるのでは」という印象にもつながります。
この風評は、求職者の応募意欲を下げるだけでなく、
在籍スタッフにとっても「うちの職場は長く続かない場所なのかも」という
無意識の不安や誇りの低下を招きます。
結果、
- キャリアアップ目的の“攻めの転職”
- 待遇や人間関係による“防御の転職”
- そして風評や将来への不安からの“予防的な転職”
が同時に増え、職場は慢性的な入れ替わり状態になります。
質の低下はこうして起きる
人の出入りが多い職場では、教育にかけられる時間やリソースが分散します。
経験豊富なスタッフが育て役になる前に辞め、
残ったスタッフは新人教育と自分の業務を並行せざるを得ない。
こうして、
- 技術や知識の伝承が途切れる
- チーム連携の熟成が進まない
- 接客や施術のばらつきが大きくなる
といったスタッフの質の低下がじわじわ進行します。
開業ラッシュの裏側にある構造
クリニック数が増えると、採用競争が激化します。
求人条件は年々上がる傾向にあり、既存クリニックも待遇改善を迫られます。
一見プラスのように見えますが、実際には
「条件に釣られて短期で動く人材」が増え、
長期的な視点で職場を育てる文化が根づきにくくなります。
さらに、開業ラッシュ期は「最終オープン日までにスタッフをそろえること」が最優先になり、
応募者の質よりも採用スピードが重視されます。
その結果、面接時に懸念が残る候補者にも、選考タイミングの都合で内定を出さざるを得ないケースが増えます。
こうして「とりあえず採用」の人材が混ざることで、
- 入職後の教育負担が増える
- 職場文化とのミスマッチが早期離職につながる
- 採用コストと入れ替わりコストが重なる
といった悪循環が、現場の質低下を加速させてしまうのです。
定着を促すための一歩
求人が常にある状態で定着を促すには、
条件の比較では見えない価値を職場内に作ることが不可欠です。
例えば、
- 明確なキャリアパスと教育計画
- スタッフ同士の関係性やチーム文化
- 院の理念やビジョンへの共感度を高める仕掛け
条件だけでは動かない残る理由を増やせば、
開業ラッシュの中でも人材の安定を守ることができます。

