有能なナースは、なぜ美容医療を去るのか──残る人、去る人。その差をつくるもの

有能なナースの選択肢は、無限にある
美容クリニックで経験を積んだナースには、次のキャリアが複数見えています。
・アートメイクや専門スキルを活かした高単価業務
・美容エステやトレーニングサロンの経営
・クリニック向けコンサルや技術指導
・実家がクリニックを経営している場合の家業参入
こうした選択肢がすでに見えている人ほど、
「今の職場に留まる理由」が薄れていきます。
技術と顧客を持つ人は、組織から独立しやすい
美容医療の現場では、売上の源泉は「誰が施術するか」に直結します。
注入やレーザーの技術が安定し、患者さんからの信頼も厚く、
指名がコンスタントに入る──。
さらにSNSで情報発信を続けていれば、新規集客までも
自分の力で生み出せる状態になります。
ここまでの状態になると、スタッフは次の計算を始めます。
「この技術と集客力があれば、自分でやった方が自由度も高く、
利益率も上がるのでは?」
そして、その計算はあながち間違っていません。
開業や業務委託、フリーランスとして活動すれば、
・施術単価を自分で決められる
・休日や働き方を自由に設定できる
・利益の大部分を自分の収入にできる
という環境が手に入ります。
だからこそ、有能な人材ほど「残る理由」を制度やキャリアパスで
明確に示さなければなりません。
成長機会や新しい挑戦、長期的に組織内で得られるメリットが見えなければ、
彼らが去るのは時間の問題なのです。
一方で──モチベーションが低いスタッフは?
逆に、技術を広げる意欲が低いスタッフの場合、
転職活動そのものにエネルギーを割きません。
ただ、美容医療業界はここ数年、クリニックの開業ラッシュが続き、
常に求人が出ている状態です。
そのため「いざとなれば、職場はいくらでもある」という感覚が、
低モチベ層にも当たり前のように根づいています。
そうなると、仕事選びの基準は制度や給与、福利厚生といった
「比較対象」が中心になり、
より条件の良い職場が出てくれば動く、という消極的な転職パターンになります。
結果として、
・高スキル人材は積極的に独立・転職
・低モチベ人材は条件比較で流動
この二極化が進み、さらに開業ラッシュによって採用のハードルが下がったことで、
業界全体のサービスレベルが低下しやすい土壌ができあがってしまっているのです。
「残る理由」を制度でつくるしかない
この流れを変えるには、
・高スキル人材には「成長と裁量」を
・低モチベ人材には「やりがいと安定」を
それぞれ制度で提供する必要があります。
とくに有能なナースにとっては、
ここにいれば、もっと成長できると実感できるキャリアパスが不可欠です。
一方で、経験や技術を広げる意欲が低い層にも、
安心して長く働ける福利厚生や安定的な待遇を整えることが、
離職率の抑制につながります。
制度づくりは「給与を上げればいい」という単純な話ではありません。
評価の透明性、裁量の幅、教育体制、働き方の柔軟性──
こうした複数の要素がそろって初めて、
この職場で働き続けたいという感情が生まれます。
美容医療業界がこれからも人材を確保し続けるためには、
「採用」よりも先に、「定着」の仕組みを整えることが欠かせない──
それが、このテーマを通じて私が強く感じた結論です。

