他業種から参入する経営者が抱える医療理解の壁

開業ラッシュで増えた「異業種参入」、でも閉院も多い現実
ここ数年、美容クリニックの開業ラッシュが続き、異業種からの参入も一気に増えました。
広告業やエステ、美容サロンの経営者など、
多彩なバックグラウンドを持つ人たちが
「美容は伸びている市場だから」と期待を抱き、次々と参入していったのです。
けれど一方で──。
開院したものの、
数年経たずに閉院してしまうケースも少なくありません。
開業ラッシュの裏側には、そんな「淘汰の現実」も確かに存在しています。
美容業と医療業の決定的なちがい
異業種からの参入でまず直面するのは、考え方の優先順位の違いです。
- お客様満足 vs 医療安全
エステや美容サロンでは「接客満足度」が最優先。
一方、医療は「安全性」を第一に考えなければならない。 - 結果のとらえ方
美容サービスは「料金に対して成果を保証する」感覚に近いですが、医療は「必ず同じ結果」を約束できるものではありません。 - 専門職の倫理観
医師や看護師は「患者を守る責任」を前提に動いています。
その倫理観と、数字優先のビジネス感覚とのあいだには大きなギャップがあります。
現場で起こるすれ違い
このギャップが埋まらないまま経営が進むと、現場ではいろいろなすれ違いが生まれます。
- 教育が接客寄りに偏る
「笑顔で」「丁寧に」という接客姿勢ばかりが強調され、肝心のリスク対応が弱くなる。 - マニュアルはあるのに医療視点が抜ける
対応フローは整っていても、「医療的にどこまで可能か」の判断は結局現場任せ。 - 医師が従業員扱いされる
経営者が「雇用している人」という目線だけで接すると、医師の専門性が軽視され、信頼関係が崩れる。
経営者が抱える医療理解の壁
こうした背景から、異業種の経営者は少なからず「医療ならではの壁」に直面することがあります。
- 数字だけでは現場を動かせない
接客業なら「売上」や「リピート率」で成果を測れます。
けれど医療は、同じ施術でも体質や状態で結果が変わるため、単純な数値管理だけでは測れません。 - 法律と責任の枠組みがある
広告規制や医師法、説明義務など、美容医療には独自のルールがあります。
経営判断のつもりが、知らないうちに「違反リスク」を抱えてしまうこともあるのです。 - 専門職の言葉をどう理解するか
医師や看護師が使う専門用語やリスク基準は、ビジネスの感覚と大きく異なります。
「なぜその判断に至ったのか」を理解できないと、意思決定そのものが難しくなります。
こうした違いに向き合ったとき、
「現場が思うように動いてくれない」
「数字と現場の感覚がかみ合わない」
と感じる経営者も多いのではないでしょうか。
結局のところ大切なのは、医療の言葉をどう翻訳して経営に活かすか”という視点。
現場の声を「経営の言語」に変換できるかどうかが、
クリニックを長く続けられるかどうかの分岐点になっていくように思います。
おわりに
異業種からの参入には、新しい視点やビジネスノウハウを持ち込める強みがあります。
一方で、医療理解の壁を越えられないまま進めてしまうと、現場との信頼関係が崩れ、離職や閉院につながってしまうリスクもあります。
「経営」と「医療」。
この二つをどう橋渡ししていくか。
その問いこそが、美容医療を持続可能なものにしていくための鍵なのかもしれません。

