なぜ、美容医療では人が定着しないのか?──「辞めたくなる現場」をつくる構造の罠

「人がすぐ辞める」は、現場のリアル
美容クリニックで働く人たちと話していると、必ずといっていいほど聞く言葉があります。
それは──
「うちの現場、人が全然定着しなくて……」という声。
看護師が次々と入れ替わる、受付が毎月変わる、カウンセラーの離職が続く。
オープニングから関わったスタッフが、1年後にはほとんど残っていない。
そんな職場も、決して珍しくありません。
こうした状況が、美容医療という業界全体に広がっているのは事実です。
にもかかわらず、離職や人材流出の原因が
「人の問題」や「個人の適性」とされてしまうことも多い。
でも本当にそれだけでしょうか?
できる人ほど、辞めていく
頑張っているスタッフが燃え尽きて、
「なんで私だけ、こんなに抱えてるんだろう?」と苦しくなってしまう──。
実際、美容医療の現場では、
「できる人」「真面目な人」ほど、業務が集中しやすい構造があります。
たとえば、
- SNSの対応や口コミ返信
- VIP対応やクレーム処理
- 売上プレッシャーやキャンペーン準備
これらが、限られた気が利くスタッフに偏っていく。
そして、何かあれば「あなたならできるでしょ?」と任され続ける。
それは期待ではなく、もはや個人依存の搾取構造になっているケースも多いのです。
なぜ、人が育たないのか?──「教育が回らない職場」の正体
人が定着しないと、「教育」にも連鎖的な問題が起こります。
でも実は、ただ時間が足りないだけじゃない。
育てようとしても、育てられない理由が、いくつもあるんです。
● 時間が割けない=業務が詰まりすぎている
現場は常に患者対応で手一杯。
予約がぎっしり詰まっている日は、OJTも新人フォローもすべて後回し。
結果、新人は「見て覚えて」文化にさらされることに。
● 教育体制が不在 or 形骸化している
「教育カリキュラムはある」とされていても、実際は回っていない。
配属初日から業務に放り込まれ、ロープレや同席指導も十分に行われないまま「現場で慣れて」と言われる。
そうして、新人は放置、教える側は忙殺のまま時が過ぎていく。
● 教える側も不安定=非常勤医師・短期スタッフが多い
医師が日替わり勤務、看護師も複業や派遣が当たり前。
誰か一人が長期的に新人を「育成担当」として見る体制がない。
その場しのぎの教育体制が常態化してしまっている。
● クリニックに「教育コスト」という概念がない
研修=無駄コストと捉えられがち。
評価制度や給与に教えることが反映されにくいため、
ベテランが「教える意味」を感じられず、消耗していく。
「続けられない職場」を変えるには?
離職の原因を、
「本人のやる気」や「職場の人間関係」といった個人の問題にしてしまうのは簡単です。
でも本質的には──
構造そのものに、続けられない理由が埋め込まれているのではないでしょうか。
- 誰がどの業務を担うのか
- 売上と評価がどう連動しているのか
- 非常勤医師や外部スタッフとの連携はどう設計されているのか
それらすべてが、人が育つか・潰れるかを左右します。
だからこそ、「仕組みとしてどう変えるか?」という視点が必要だと思うのです。
悪者探しではなく、構造の見直しを
「人が辞める」こと自体は、どんな業界にもあることです。
でも、美容医療業界においては、定着しにくい構造が温存され続けている。
だからこそ問いたいのは、誰かを責めることではなく──
どうすれば続けられる現場をつくれるのか?という問い。
次回は、その構造的な問題がどう制度や評価制度に影響しているのか、
そして「続けたくなる職場」をつくるための第一歩についても掘り下げていきます。

